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<<   作成日時 : 2012/07/14 13:26   >>

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                   黒い旗

(今から四十年前、学生時代に書いた雑文です)


目覚ましが鳴っている。
もう十時か。
ずいぶん眠ったのに、疲れている。
そうだ、二講目は、数学の試験だった。まだ間に会う。
だがよそう。疲れちまった。なんだか、ひどく、疲れている。

 雨は止んだのか。
 窓をあけると、深い、真夏の空だ。
 あくびをした。背骨が、かるく、音をたてた。
 茶(サ)店へ行こう。ドミがいい。可愛い子がいる。音楽がいいし、客がすくない。
 青いネクタイをしめて、麻の上着を着た。
 外は、さわやかな光だ。

 階段を上って、ドアを押した。あ、ピンクフロイド。
 おはよう。あの子が笑う。歯なみがきれいだ。手を振ると、また笑って、椅子を立った。
コオヒイの香りが流れてくる。
 雨は朝までふったのか。街路樹のぬれた葉が、風にひかっている。
 「学校は?」
 口ぶえを鳴らした。
 「だめよ」
 「疲れたんだ」
 「またそんなこと」
 そんなこと。そうか、そんなことだったか。いや、分らないさ。きみに、何がわかるのか。
 あの冬。
 「疲れたおじいさん。はい、ホット」
 熱い、ブラックを、ひと口飲み込んだ。すこし眼が冴えた。ピンク・フロイドが、胸にしみる。
 記憶の遠くから、かん高い、アジがきこえてくる。雪になりそうな空に、黒い旗がひるがえっていた。
 あの冬。
 奴は逃げおくれた。ヘルメットが飛び、顔に血が流れた。奴は名前を呼んだ。誰の名を呼んだのか。誰を。
 「おじいさん。考えごと?」
 引き返すか。この、怒号と警棒の嵐の中を、どうやって。
 両手で、耳をふさぎ、駈けつづけた。何故引き返さなかった。
 何故。
 「あした、休みなの」
 「え、」
 「海に行かない?」
 「海?」
 腕をねじ上げられ、割れた眼鏡の奥で、陽気だった奴の眼が暗くひかった。
 何を見たのか。
 あのとき。どれほど。だが、どれほどの想いをこめても、還っては来ない。二度と還っては来ないのだ。
 あの冬。
 「約束、忘れないでね」
 「え、」
 「何よぼんやりして」
 ふふ、かなわない。めぐる季節を、どのように愛し、一体、何処に住むのか。
 何処に。
 「あした」
 あの子が手をふる。
 階段を下りて、空を見た。
 積乱雲だ。

                       *

 おまえは少年をさがしに外へ出る。
 雪がふっている。
 きのうは秋の空だったが、今朝、ふいの便りのように冬が来た。
 雪の冬はこれが終りになるだろう。
 この雪のきえる四月に、おまえは南の方へ就職する。

 おまえは悦福されて旅立つにちがいない。
 仕事への若い夢と、美しい恋人をつれてゆく南国の華やかな春は、雪の月日を忘れさせるだろう。
 雪の街は、おまえの記憶からとけ去るだろう。
 おまえは今朝、しきりにおまえを呼ぶ少年の声をきいた。雪の遠くから、迷い子のように呼ぶ声だった。

(私が谷島瑤一郎を名告って学生作家のまねごとをしていたころの雑文です。
 四十年前のことです。
 今朝の茂木健一郎先生のツイートに触発されて、未完の雑文を掲載することにしました)

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